蜜蜂
.




「あ、やばっ!ねぇ千明にぃ、遊びに行こう!」


「は?」


「ね、一時間でいいからどっか連れてって!」


啓のいきなりの要求に、今度は俺が首を傾げる。
きょろきょろと周りを気にしていて、どこか焦っているようにも見える。
俺は携帯電話を開ける。まだ3時。


「んー…まぁいいけど。」


「本当?やったー!」


嬉しそうにガッツポーズ。素直で羨ましいと思った。


「じゃあ急がなきゃ!千明にぃ早く!」


そう言って、立ち上がった俺の腕を引っ張る。
いったい何があるというのだろうか。







「啓!」








「げ…やば。」


後ろから聞こえた、少年を呼ぶ声。
それに対し、啓は小さく舌打ちした。
声の主が近寄ってきて、俺の腕を掴む啓の手を離した。


「もう、待っててって言ったでしょう?」


その言葉に啓は、ただうつむくしかない様子。
俺を放置して説教ですか?


「すいません。弟が迷惑かけて―…」


「え、いや別に何も―……」


俺に話しかける声で我にかえり、いきおいよくその人物の顔を見た。



.
< 84 / 203 >

この作品をシェア

pagetop