蜜蜂
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「ごめんね千明。」


「ん?」


「啓、迷惑だったでしょう?」


「そんなことないよ。純粋すぎてちょっと困ったけどね。」


そう言って、俺は苦笑してみせる。
そして辺りを見渡した。


「悪の手下…ね。」


「え?」


「さっき啓が言ってたんだよ、杏花は悪の手下なんだって。」


あぁ、と彼女は納得したようだ。


「啓は大っ嫌いだからね、注射。」


少しかたい椅子に座って、俺たちは話している。
ちびっこが走り回り、親が叱る。
白い内装に、悲鳴に近い泣き声が響いた。
壁に貼られたインフルエンザ予防接種のお知らせ。
県立病院小児科の待合室。


「こわくなんかないもん!」


啓が、俺たちの前に立って大きな声で言った。



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