蜜蜂
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強がってるのがバレバレだ。
握ってる手はぷるぷる震えてるし。
その証拠に、看護師に名前を呼ばれた瞬間、啓の顔が引きつった。
代わりに杏花が返事をした。
啓は助けを求めるように、俺を振り返る。
俺はそれににっこり笑って返した。


「幸運を祈る!」


「?」


啓は理解できなかったらしく、キョトンとした顔で首を傾げた。が、


「はい啓、行くよー。」


杏花が啓の手首を掴み、そう言って診察室に連行していく。


「やだぁ!千明にぃーっ!!」


目に涙をため、杏花に引きずられながら啓は俺に手を伸ばす。
俺は、自分にそんな時代があったなぁと感慨深く思いながら、笑ったまま手を振った。



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