manaloha
「あ!!!!ごめんなさい!!時間が5分早い!!のでUターンします!!」
年配のご夫婦は笑い始めました。
「こんなところで!?」
私もびっくりして笑ってしまいました。
「ごめんねぇ、時間早いけぇ待っとかんといけんかったのに、忘れとった。ごめんなさい」
そう言ってバスはUターンをして向こう側の車線へ。
片側3車線、真ん中に路面電車の線路2本を挟んだ6車線の大きな道路です。
こんなバスは初めてです。
なんだかわくわくします。
年配のご夫婦も口々に
「大丈夫?焦らんでも大丈夫よ」
「あんた次はどこでUターンするつもりなんね?」
運転手さんはマイクで、ごめんねぇ、すぐじゃけぇね、と言いながら顔を少し後に傾けて私に、ごめんねぇ、と言いました。
「こちらこそごめんなさい」
責任を感じて謝ると、大丈夫じゃけぇ気にしんさんな、ほんまにごめんねぇ、と言ってバスは元来た道を戻ります。
それから年配のご夫婦と運転手さんのやり取りが始まりました。
「どこで曲がるんね」
「あぁ、ここはUターン出来そうにないけぇ、次こそは」
「楽しいわぁ」
「あ、曲がれんかったけぇ、違う道通るけえね、ごめんねぇ」
「あんたは駅まで戻るつもりかいのう」
「いや、そんなことは‥」
そうしてとうとうバスはUターン出来ず、普段バスの通らない裏道を通って、細い道を曲がり、小さな橋を渡って、出発点の広島駅まで戻ってしまいました。
ご夫婦は楽しそうです。
私もにやにやが止まりません。
結局、5分早かったバスは5分遅れで駅を出発したのでした。
年配のご夫婦はバスを降りる時に、口々に、楽しかったわ、ありがとう、とお礼を言いながら降りて行きました。
私も降りる予定の小学校前で、ここで大丈夫?と心配されて無事に家まで帰ることが出来ました。
普段通らない道を走るバスは、トトロのねこバスにでも乗っている気分。
運転手さんの気さく過ぎる話し方といい、年配のご夫婦の子供のような楽しそうな態度といい、すべてが不思議空間でした。