「あれもこれも大掃除。」
窓ガラスがピカピカと光っている。
これくらいに想い出もきれいさっぱり消えてしまったなら、すんなりと別れることを決意できただろうに、想い出は重曹では落ちない。想い出は重奏なのだ。
かなり綺麗になった部屋の中で、見たくないものが一つだけ。
それはもちろん台所だ。
油汚れがひどく、粘り付きこびりついた汚れが目立つ。媚びりつく彼女のことを考えると無性に腹が立ったが今はそれどころではない。
掃除をしなければならないのだ。台所にあった油汚れ専用の洗剤を使って落とそうとしてみる。
「落ちねえ。全ッ然落ちねえぞ! クソッタレが!!」
その後も何度も洗剤を使って落とそうとしてみたのだが、ベタつきが残りどうしようもなくなる。そして、洗剤もなくなってしまったのだった。
途方に暮れる彼。もう、どうでもよくなってきていた。
「ありさ、すまねえ。石鹸もらうぞ」
それは誕生日に彼女が欲しがっていた純石鹸だった。
香りが好きだ、だとか訳の分からないことを言われてついつい買ってしまったものだった。
想い出として残しておきたかったが、今では油汚れと共に落としてしまいたくなっていたのだった。
すべて忘れたい。
それだけだった。すると。
「んだこれ。すげえ落ちるな…………」
つるつるとしていて見事に新品同様になった台所を見ていると満足してしまう。
新品同様の彼女だったなら、まだ惚れ続けていたのだろうか。
そんなことを考えている。
「いや、それはねえなあ……ははは……」