王子様はご主人様!?
「っ……」
視界が歪んでいく。
「綾香ちゃん、出よう……」
ゆっくりとした口調で諭すように、あたしの肩を抱いて席を立たせた蒼依くん
あたしはそれを拒否できず、すがるように立ち上がった
会計を済まして、店を出たと同時に頬を一筋の涙が伝った
「っ……うっ……」
認めたはずなのに……
お兄ちゃんには花梨さんが必要だって……
お兄ちゃんの一番は花梨さんなんだって、わかったはずなのに……
止まらない涙に、胸が締め付けられる
泣き出してしまったあたしを見かねてか、蒼依くんがそっと建物の裏にあたしを連れていった
「っ……うぅ―…」
本当はわかってた……
あたしが“認める”とか、“認めない”とかの問題じゃなくて……
お兄ちゃんが花梨さんを大事に、大切に思ってるんだって……
「綾香ちゃん、よく頑張ったじゃん」
「……え」
意外な言葉と共に、優しく撫でられた頭
顔をあげると、少し笑みを浮かべて、蒼依くんがあたしを見ていた
「今まで一緒に居た人が、他のヤツを思ってるなんて悔しいよな……」
「っ……」
「大好きな人なら、なおさら……」
悔しい…なんてものじゃなかった。
悔しいより、苦しかった……
あたしの体の一部が無くなったみたいに、身動きが取れないほど……
「でも、綾香ちゃんはちゃんと輝と花梨の幸せを願ってるんだろ?」
「………」
「ゆっくりでいいんだよ…。お兄ちゃん離れをするのなんて……」