迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「おはよう、櫂。」
遠慮がちにリビングに入ってきたアイツに、母さんは笑顔を向けた。
「もう少し寝てればいいのに…。昨夜も帰り遅かったんでしょ?」
「うん、まぁ…」
椅子を引いてやりながら、俺のほうをちらりと見て。
無言で、アイツの分の食事を促す母さん。
…ハイハイ。
本当はすごく嫌だけど。
俺だって、そこまで意地悪じゃないし。
みさきはいつも、人数分用意してくれるから。
ちゃんと、作ってありますよ。
「どーぞ。」
とりあえず、コーヒー。
カップに入れてテーブルの上に出してやる。
「あ…どうも。」
やっぱり、遠慮がちに。
お礼を言って受け取って、アイツはすぐに視線を反らした。
ひどく気まずそうに。
……珍しいな。
いつも、
目が合って、先に視線を反らすのは俺のほうで。
アイツは、何かを言いたげにずっと俺を見ているのに…って、そっか。
「安眠を妨げちゃってごめん、ね?」