迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
――“諦める”ことには慣れていた。
小さい頃から、ずっと。
欲しいものが手に入ったことなんてなかったし、
やりたいことをできた試しがなかったから。
「あのおもちゃが欲しい」って思っても、
それがアイツも欲しがっているものだったらアウト。
アイツが持っているものでも、同じくアウト。
2歳違いで、
しかも同姓の兄弟。
子供が欲しがるものなんてだいたい似たり寄ったりだから…
クリスマスや誕生日。
俺たちがおねだりするものは、被ることが多くて…
たいてい、俺が我慢するしかなかったんだ。
やりたいこと、に関してもそう。
同じことは絶対にやらせてもらえなかった。
「近くにスイミングスクールができるらしいぞ。」
野球チームに入れなくて落ち込む俺に、父さんが勧めたのは“水泳”だった。
野球と比べたら、地味で目立たない。
当然、やっている子は少なかった。
でも、アイツが“やっていない”ことだったから。
父さんは俺を必死で説得したんだっけ。
「泳げるようになったら、父さんと一緒に海に行こう?」