迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
……結局、
その約束が守られることはなかったけど。
やってみたら案外楽しくて。
今でも続けているわけだから…まぁ、これに関しては感謝しなきゃいけないのかもしれない。
あれだけ身体が弱かった俺が、こうして人並みになったのも“水泳”のおかげだと思うし?
でも…
これは、あくまで一部。
たまたま成功した例にすぎない。
普段の生活の中で、
ほんの些細なことに関しても、
あの家で、俺に“自由”はなかった。
優先されるのはアイツで。
俺はすべてを制限されて。
そのうち…成長するにつれて、嫌でも気づかされることになった。
俺は、
アイツの後ろでおとなしくしていなくちゃいけないんだ、って。
主張しちゃいけない。
目立っちゃいけない。
アイツよりもうまくできちゃいけない。
褒められるようなことをしたらいけない。
何も望んじゃいけないんだ、って――
だから、
ずっと我慢していた。
あの家を出るまでは、ずっと。
「……ん?」