迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
僕らの事情
――翌日。
俺は母さんと航の住むマンションへ向かった。
母さんとは頻繁に連絡は取り合っていたものの、ここに来るのは初めてかもしれない。
なんとなく来ずらくて、誘われても断っていたんだけど……
今回はなんとなく断れなかった。
マンションは病院のすぐ近くだったし、それに……
久しぶりに、航に会ってみたくなったから。
「ここ…だよな?」
母さんに渡された地図とマンション名を確認する。
そして、エントランスに足を踏み入れた…とき。
「あ…。」
偶然と言うか、タイミングと言うか……
ちょうど、会ってしまった。
「……。」
俺の姿を捉えるなり足を止めて、無言で立ち尽くす。
程よく着崩した制服。
茶色がかった髪。
細身で長身の、バランスの取れたスタイル。
整った顔。
「……航?」
最後に会ったときよりも確実に、明らかにイイ男へと成長した“弟”。
「……久しぶり。」