迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「あら?2人一緒だったの?」
玄関で出迎えてくれた母さんは、俺たちを見るなり嬉しそうに微笑んだ。
「……下でたまたま会っただけ。」
ぼそっと呟くと、航は母さんの横をすり抜けてそのまま奥へと進んで行く。
俺のほうを見ようともしないで。
その声には、一切感情がこめられてはいないし、
表情も、ない。
歓迎されていないことは明らかだった。
実際、ここに来るまで…エレベーターの中でも、会話なんて1つもなかったんだから。
「そうなの?でもちょうどよかったじゃない。」
わざとなのか、気がつかないのか……
明らかに不穏な空気が流れているのに、
俺にスリッパを用意しながら、母さんはなおもにこにこしている。
「さあ、櫂。どうぞ。」
「……お邪魔、します。」
遠慮がちに足を踏み入れれば、
「なに他人行儀になってんのよ。そんなに恐縮しないでよ。」
無邪気な母さんに、バシッと背中を叩かれた。