迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
―――あの日、
電話を受けたのは俺だった。
相手が名乗ったとき、
瞬時に、母さんに何かあったんじゃないかって思って…
血の気が引いたのを覚えている。
でも、そうじゃなくて。
受話器の向こうのその人は、母さんに話があるのだと言った。
仕事に出ている、と伝えた俺に、
どうしても連絡が取りたいと引き下がらない相手。
事情を聞いてみれば……
病院に寄って、母さんと合流して。
なぜか、俺もそのまま同行することになって…
着いたのは、
警察署。
寒い冬の夜。
警官らしきおじさんと
パイプ椅子と石油ストーブ。
狭くて暑い空間で。
コートを着たまま俯いて。
そこに黙って座り込んでいたのは、
半年ぶりに会う“兄”で。
警官の説明を聞きながら、何気なく視線を移した。
俺の視界に飛び込んできたのは…
少し離れたところに、
同じように座って。
“いつものように”、
無表情でぼんやり窓の外を眺めている…
見慣れた、女の子。