迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「母さんって、料理できたの?」
「……失礼ね。
昔はちゃんと作ってあげてたでしょ?」
「そうだっけ?」
対面式のキッチンだから。
2人の会話はよく聞こえるし、姿も見えている。
「全部みさきにやらせてるから、できないもんだと思ってた。」
「人聞き悪いわねぇ。
決して“やらせてる”わけじゃないわよ?
みさきちゃんが“やってくれる”って言うからお願いしちゃってるだけ。」
「一緒じゃん。」
「違うわよぉ。
人を“鬼姑”みたいに言わないでちょうだい。」
何気ない会話。
でも、ひどく胸が締め付けられる。
彼女が、この家にすっかり馴染んでいることを物語っているから―――
「母さん、なんか焦げてるけど?」
「うわっ。あーっ。
……久しぶりにやるとダメねぇ。やっぱり。
みさきちゃんに来てもらえばよかったわ。」
「人の彼女を“家政婦”代わりにしないでくれる?」