迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「そう言えば、航は?
進路、ちゃんと決めたの?」
思い出したかのように、航のほうに向き直る母さん。
「進学、っていうのはわかってるけど、志望校は?決めたの?」
「……んー。まぁ。」
「ならいいけど…。
悪いけど、うちには浪人させる余裕はないからね?
夏休み、しっかり頑張りなさいよ?」
「ハイハイ。」
「まったく……。」
呆れたように呟く母さんと、平然と食事を続ける航。
そのやり取りは、ごくありふれたものだけど、見ている俺にとっては複雑だ。
隣合って座る2人は、紛れもない“親子”で。
自分だけが切り離されたような……そんな感覚に陥ってしまうから。
嫌でも距離を感じずにはいられない。
離れて暮らして6年。
ちょくちょく会っていたとは言え、その時間はもう埋められない。
あの日から、
母さんの“息子”は航だけ。
母さんにそんなつもりがなくても、それが事実。
母さんは、
航を守るために家を出たんだから――。