迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「全部、持ってるから。」
航くんは言った。
――なんで、そんなに“お兄さん”を嫌うの?
前に1度だけ。
そう、聞いてみたときに。
「全部持ってるくせに…
それに気づいてないところがムカつく。」
吐き捨てるように言った航くんは、今まで見たことないような怖い顔をしていた。
恨みや憎しみ。
辛さを無理矢理押し込めたような…
「…なんて。もういいでしょ。この話は。それより、これなんだけど…」
でも、それはほんの一瞬のことで。
すぐにいつもの笑顔に戻ったから…
私も、それ以上は聞けなかったんだ。
何かがある。
航くんと先輩…いや、
“成海家”の間には。
航くんの態度から。
航くんとおばさんとのやりとりから。
私はずっと思っていた。
出会ったときには、
航くんはもう“水沢”で。
“成海”だった頃の航くんを私は知らない。
何があったのか。
なんで、
それほど強い憎しみを抱くようになったのか――?
私は、知らないんだ。