迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「……ごちそうさま。」
決して和やかとは言えない食卓。
しゃべっていたのは母さんだけだし。
航なんて、黙り込んでいるどころか顔を上げようともしない。
極力、俺のほうを見ないようにしていた…んだと思う。
ようやく口を開いたと思ったら……
「俺、これから出かけるから。」
素っ気なく言うと、食器を持って立ち上がった。
「は?なんで?どこに?」
驚く母さんを横目に、
「悟のとこ。泊まってくるから気にしないで。」
表情を変えることなく、キッチンへと向かう航。
「悟くん家って……
何も今日行くことないでしょ?こうして久しぶりに……」
「だから、泊まってっていいよ?」
母さんを遮って発せられたのは、
「俺がいないほうが、ゆっくりできるでしょ?」
間違いなく、俺に向けられた言葉だった。
挑むような、射ぬくようなまっすぐな瞳。
今日初めて、俺に向けられた視線。
そらせないのは、今に始まったことじゃない。