迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*



―――……

――…



「黙ってたほうがいいんだよね?」



あの事件の後。

学校で顔を合わせるなり、航くんは私に近づいてきて。


こっそりと。
そう聞いてきた。



「この前のこと。
誰にも言わないほうがいいんだよね?」


「…え?」


「先輩も、知られたくないでしょ?」



一瞬、何のことだかわからなかった。


私はまだ、現実に戻り切れていなくて。

なんだかずっと、ぼーっとしたまま生活していたから。


でも…



「俺、口は固いから。
あそこで見たこと全部、秘密にするよ。」



航くんの言葉にハッとした。

一気に現実に引き戻されたような…



「だから…」



戸惑う私に向かってにっこりと微笑むと、



「つき合ってくれる?」



そのまま、無邪気に。
航くんは言った。



「へっ?」


「今度の日曜日。先輩ヒマでしょ?」


「えっ?」


「黙っててあげるから。
その代わり…俺と“デート”して?」




それが、

“はじまり”になった。



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