迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*



「観たい映画がある」

「買いたいものがある」

「行きたいところがある」

「食べたいものがある」



……等々。




それ以来、

航くんは何かと私を誘い出すようになった。


放課後は、決まって「一緒に帰ろう」と誘いに来るし。


何かにつけて、私の傍にいた。




それ以前も、確かに近くをうろうろしてたような気はするけど…

それは主に委員会がある日だけだったし。

あとは、たまに廊下とかで会ったときくらいで。



そこまで接近してくるのは明らかにおかしかった。




“黙ってる”ための対価は、最初の1回だけ。


その後、その話を持ち出してくることはなかったから…私には謎だった。



なんで?

なんで私にかまうの?



航くんに聞いても、

「冬は部活がなくてヒマだから」としか言わないし…




でも、

そのことに助けられていたのも事実。



家にはいたくない。

でも行き場はない。


1人で行けるところは限られていたから…



航くんの誘いは、ただ純粋にありがたかったんだ――



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