迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
つい最近、来たばかりのリビング。
何ひとつ変わり映えはしない。
ただひとつ、違うのは……
「夕飯、食べて行くんですよね?」
ソファーに腰かけた俺にお茶を出しながら、彼女は普通に聞いてきた。
顔を合わせたのは大学での再会以来で。
あのときもほとんど話していないわけだから、まともに話すのは実質5年ぶりなのに……
そんなことはまるで気にならないみたいだ。
俺がこうしてここにいる理由にすら、関心はないのだろう。
「先輩は、好き嫌いとかありますか?」
返事をしそびれたにも関わらず、“食べていく”ことで話を進めて行く彼女。
沈黙を“肯定”と捉えたらしい。
「え…?」
「アレルギーとかは大丈夫ですか?」
ああ、そうか。
食べ物の話か。
「そういうのがあったら言ってくださいね。
これから作るので、まだ変更できますから。」