迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
――ドンッ。
唇が触れる、ギリギリのところで、
俺はマドカの体を思いっきり突き放していた。
「うわっ…」
その衝撃でマドカの体が後ろへよろめく。
…あ。
「ごめん。大丈夫?」
それをなんとか防いで、マドカの腕を掴んで引っ張り上げたものの…
俺は無意識に、もう片方の手で口元を覆っていた。
「コウちゃん?」
不思議そうに、若干不満気な様子でこっちを見ているマドカ。
俺は…
「……できないよ。」
「え…?」
「キスだけはできない。」
それがマドカの頼みでも。
たとえ、どんな形であっても…
今の俺に、それはできない。
いや…
この先ずっと、
そうなのかもしれない。
だって…
「…知ってる?」
指先で自分の唇に触れながら、俺はぼんやりと呟く。
「唇って、
身体の中で1番、
温度に敏感なんだって。」
「え…?」
「1番正確に“温度”を判別できるんだよ。」
「……?」
だから…
「本当に好きな人にしか、触れちゃいけないんだよ――」