迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
苦くて甘い目覚め
「じゃあ、よろしくね。」
病棟の前。
入り口に横付けするように止められたタクシー。
数時間前と同じ場所に、俺は再び立っていた。
外はもうだいぶ暗くなっていて。
空気も冷たくなったような気がする。
「ちゃんと送ってあげるのよ?」
ぼんやりと。暮れかかる空を眺めていた俺に、
荷物を差し出しながら、ぴしゃりと言い放つ母さん。
「…わかってるよ。」
それを受け取りつつ、俺はちらっと、止まっているタクシーを振り返る。
ドアが開いた後部座席。
そこには…
「話は後にしなさいよ?」
「え…?」
「今日はゆっくり休ませてあげて…また今度、改めて話し合いなさい。」
安静第一よ、と。
言いながら、母さんは俺をタクシーのほうへと押しやって。
俺は、そのままそこに乗り込んだ。
「じゃあね。気をつけて」
母さんの声が聞こえたと同時に、ドアが閉まって。
タクシーの運転手さんが、ミラー越しに俺を見る。
「…お願いします。」
そして、
車は動き出した。