迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*




「…危なっ」



タクシーを降りて。

つまずいてよろけた体を慌てて支えた。


普段は気にならないくらいに小さな段差なのに。


薬の影響か、
体調のせいか…

ふらふらと、おぼつかない足取り。


弱りきったみさきの姿は、ものすごく痛々しい。



相変わらず、俺のほうを見ようともしないけど…



でも…


体を支える俺の腕も、

タクシーの中で、あのまま繋いだ掌も。



みさきは決して、振りほどこうとはしなかったから。



何より、

これからみさきが向かおうとしている場所は……




俺は微かな“希望”を抱いていた。













「……どうぞ。」



みさきの体を支えつつ、鍵を開けてドアを開けて。

急いで灯りをつけて、足元を照らしてから。


俺は中へと促した。



「あ…。」



ほとんど無意識に。

自分のスリッパに手を伸ばそうとしていたみさきが、ふいに動きを止めた。


そして、俯いたまま小さく呟いた。



「……いいの?」


「え?」


「私…入ってもいいの?」



< 278 / 334 >

この作品をシェア

pagetop