迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「…危なっ」
タクシーを降りて。
つまずいてよろけた体を慌てて支えた。
普段は気にならないくらいに小さな段差なのに。
薬の影響か、
体調のせいか…
ふらふらと、おぼつかない足取り。
弱りきったみさきの姿は、ものすごく痛々しい。
相変わらず、俺のほうを見ようともしないけど…
でも…
体を支える俺の腕も、
タクシーの中で、あのまま繋いだ掌も。
みさきは決して、振りほどこうとはしなかったから。
何より、
これからみさきが向かおうとしている場所は……
俺は微かな“希望”を抱いていた。
「……どうぞ。」
みさきの体を支えつつ、鍵を開けてドアを開けて。
急いで灯りをつけて、足元を照らしてから。
俺は中へと促した。
「あ…。」
ほとんど無意識に。
自分のスリッパに手を伸ばそうとしていたみさきが、ふいに動きを止めた。
そして、俯いたまま小さく呟いた。
「……いいの?」
「え?」
「私…入ってもいいの?」