迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*




……さて。どうしよう?



家に上げたはいいけど…


まずはどうすればいい?

どこに通せばいい?



そもそも、なんでみさきはここに来たんだろう?


運転手に行き先を告げたのは、みさきだ。

母さんも俺も…
何も言っていないから。


みさきは自ら、ここに来ることを選んだ。



なんで?

自分の家には帰りづらかったから?



……いや。だったら、ここじゃなくて茉奈さんのところに…あ。そっか。


茉奈さんは確かバイトだ、って…


だから…?




みさきには、他に行く場所がない。

帰る場所がない。



そうさせたのは、他ならぬ俺、だ。



みさきに“居場所”を与えたつもりで

助けたつもりで

守っているつもりで…


本当はずっと、
みさきを自分の傍に縛りつけていたんだ。


だから、みさきには“ここ”しかない。



自分がそうさせたくせに、俺はみさきを遠ざけた。


突き放して…





俺は、何をやっていたんだろう……?





「こっちに…」



とりあえず、リビングに。

誘導しようとしたのに…



「……え?」



スッと。

俺の脇をすり抜けて。



みさきは、ためらいもなくまっすぐに。

奥の部屋へと向かって行った。




そっちは、俺の…




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