迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「え?」
「今日、航は?」
思えば、最初から気にはなっていた。
高校生は、とっくに夏休みに入ってるはずだし、
夏期講習は昼間だけ。
予備校の類いには行っていないはずだし……
そもそも、航がいないのに彼女がここにいること自体おかしい。
俺が来ることは、母さんから聞いてるはずだから。
もしかして、言ってない…とか?
「ああ…航くんは、買い物に行ってます。」
いろいろと考えを巡らす俺に、あっさりと言い放つ彼女。
「おばさんに頼まれたみたいで…そう言えば、ちょっと遅いかも。」
ちらっと時計を確認して、首を傾げる彼女。
「また、あっちまで買いに行ったのかなぁ?」
ぽつりと呟いた。
そんな些細な一言にすら、俺の心には痛い。
2人の関係の深さを思い知らされるみたいで……
「たぶん、もうすぐ帰ってくると思…「ただいまーっ」
タイミングがいいのか悪いのか。
玄関を開ける音がして、航の声が響いた。