迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「遊びにおいで、って言っても全然来ないんだもの。
私にだって“会う権利”はあるんだから、遠慮しなくていいのよ?」
「……。」
「あなたも航も2人とも、私の大事な息子に変わりないんだからね?――櫂。」
「……っ。」
やさしい瞳。
“母親の”眼差し。
昔とちっとも変わっていない。
もうとっくに、それを“なつかしい”と思える年になっているはずなのに、
こうしてふいに向けられると、胸が詰まる。
ずっと離れて暮らしていたから。
……いや。同じ家にいるときから、母さんとの間には“距離”があったんだ。
近づきたくても近づけなくて。
甘えたくても甘えられなかった。
だから……
「航とも、ずっと会ってないんでしょう?」
「……えっ?」
母さんの声にハッとして顔を上げれば、
「あの子は…ここにも顔を出すようには言ったんだけど、聞きやしない。」
呆れたような表情。でも……
「まったく。困ったもんよね。」
それは明らかに、俺に向けられるものとは違うんだ。