迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「おかえりなさいっ」
彼女の反応は早かった。
キッチンから飛び出して、パタパタとスリッパを走らせて玄関へ。
さすがに、追いかけることはできなかったけど……
「遅かったね?…あ。やっぱり、あっちまで行ってたんだ?」
開いたドアから、こっちまで筒抜けで。
音や雰囲気で、状況はなんとなくわかってしまう。
「あー、うん。」
彼女に荷物を渡しながら、靴を脱ぐ航。
「おつかれさま。外、まだ暑かったでしょ?」
「そりゃ、もう。さすが真夏って感じ。タクシーでも使ってやろうかと思ったよ。」
「じゃあ、シャワー…って、ダメだ。まだおばさん使ってるんだ。」
「えーっ?あの人まだ入ってんの?大丈夫?中でひからびてるんじゃないの?」
「航くんっ!」
……胸が、ざわめく。
2人のやり取りに、耳を塞ぎたくなる。
まさか、こんな気持ちになるとは思わなかった。
「……あれ?来てたんだ?」