迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「家を出て、県外の大学に行く」
そう伝えたとき、当然ながらあの人は猛反対をした。
心理学に転向したことすら言っていなかったから。
その怒り様は半端じゃなかった。
「なんで黙っていたんだ」
「勝手なことをして」
「“跡取り”としての自覚が足りない」
…等々。
散々なじられた挙げ句、
終いには「私を見捨てるのか…」なんて、泣き出す始末。
その小さな背中を見て、少しだけ胸が痛んだけど…
俺の決心が揺らぐことはなかった。
着々と準備を進める俺と、
なんとか止めさせようと画策する祖母。
冷戦状態が続く中、間に入ってきたのは…
「行かせてやってください」
父さん、だった。
「会社を継ぐのは、別に櫂じゃなくてもいいでしょう?」
“一族経営”の会社。
“社長”は、近親者なら誰でもいいのだ、と。
適した人材はたくさんいる。
だから…
「櫂がやりたいことをやらせてやってください。」
父さんは、
あの人に頭を下げた。
初めて、だった。
父さんが…
俺の“味方”をしてくれたのは―――