迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*



結局、

あの人から“許し”が出ることはなかったけど…


それ以来、そのことには口を出さなくなった。


……と言うよりも、
俺と言葉を交わすことがなかったんだ。


明らかに無視。

目も合わせない。


だから俺も同じように…







そして、家を出た。


見送りさえもされなかったから、

俺のことは“いらなくなったんだ”とばかり思ってたのに…



「…なんだ?これ。」



引っ越し先のアパートで。

荷ほどきをしているときに見つけた、見覚えのない段ボール。


中に入っていたのは……



「……っ。」



祖母が詰めたらしい、

日用品の数々…だった。



子供の頃からずっと、俺が愛用してきた薬とか、

お手製の調味料とか、使い勝手のよい食器とかタオルとか…


見落としがちな、でも必ず入り用の品々。




そして、

一枚の手紙。




「頑張って――」



書かれていたのは、一言だけ。



でも、

それで十分だった。





あの人は、


“跡取り”じゃなく、

“孫”として



ちゃんと俺を見ててくれたんだなって。





伝わってきたから―――


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