迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
リビングに足を踏み入れて、俺の姿を見るなり、
航の表情がすっと消えた。
「“いらっしゃい”」
低いトーン。
感情のない声。
冷ややかな瞳。
歓迎されていないのは明らかだった。
「……夕飯、作ってたんだ?」
ちらっとキッチンに視線をやって、
「で、母さんは風呂で……」
そこで、何かに気づいたようで。
「“5年ぶり”の会話は弾んだ?」
「……え?」
「思い出話は結構だけど、余計なちょっかいは出さないでね?」
棘を含んだ言葉と、
毒を含んだような笑顔。
それは、明らかに“敵意”。
「航くん?おばさんもう上がるって。」
重苦しい空気を破るかのように、戻ってきた彼女。
どうやら、母さんの様子を見に行っていたようだ。
「なんか、航くんが買ってきてくれるの待ってたらしいよ?……あれ?どうかした?」
航と俺を交互に不思議そうに見ている。
「……なんでもないよ?」
そんな彼女に、航はやさしく微笑んだ。