迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「……“彼女”かぁ。」
湯船につかりながら、思わず声がもれてしまった。
頭の中に浮かぶのは、さっきの食事風景―――
なんてことはない。
この前、母さんと航と3人で食べたときとほぼ同じ。
彼女が入ったことで、あのときより少しだけ和やかになったかもしれない。
母さんも航も、彼女と話せる分、会話が増えたから。
ただ……
俺にとっては、前回よりも窮屈なものだった。
苦しくなった。
だって……
「……ハイ。」
「あ、ありがと。」
それは本当に些細なこと。
航の手が一瞬止まれば、
視線が動けば、
彼女が“それ”を差し出す。
それは航も同じで。
ついでに言えば、母さんも同じ。
調味料だったり、皿だったり。
飲み物だったりおかわりだったり。
一緒に時間を積み重ねていなければ、できないこと。
一緒にいたって、気をつけて見ていなければ気がつかないこと。
俺のいない
“歴史”がそこにあった。