迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「昔から、あの子は変なところで頑固っていうか…融通がきかないのよねぇ。
うまく生きてるように見えて、実はものすごく不器用だから。」
困ったように言いながらも、その表情はさっきの何倍もやさしい。
「ちょっと顔を出すだけでも全然違うのにね。
何も、あの家に戻れって言ってるわけじゃないんだから……」
“あの家”か。
「ま、別に生死に関わるわけじゃないから。
私も無理にとは言えないんだけどね。」
……確かに。
“もう助からない”とか言うなら話は別だけど、
今、あの人が航に会いたがっているとは思えない。
年のせいか、最近はだいぶ丸くなっては来たけど、
やっぱり根本的なところは変わっていないから。
あれ以来、
あの人は、母さんたちの名前を口にしたことすらないんだから――
「でも、2人は会ってもいいと思うのよね。むしろ、もっと会うべきでしょ。」
「……え?」
「2人きりの兄弟なんだから。」