迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
あの日の過ち
「おかえり。」
本当なら、誰もいないはずのリビング。
庭も。玄関も。
灯りが消えていたから、てっきり無人だとばかり思ってたのに。
「……帰ってたんだ?」
ボリュームを落としたテレビの前。
ソファーに座って新聞を広げていたのは……
「ああ。今日は久しぶりに仕事が早く片付いてな」
穏やかに微笑む…父親、だった。
顔を合わせるのは、どのくらいぶりだろう?
祖父の代から続く会社で、社長を務める父は、
深夜に帰宅して、早朝に出勤する毎日。
出張だなんだで帰って来ないことも多いから、
同じ家で暮らしているはずなのに、ほとんど会わない。……昔、から。
“忙しい”が完全に嘘だとは思えないけど、
あえてそういう状況を作り出しているのは確かだ。
ここに、帰りたくないから。
必要以上に、関わりたくないから。
“仕事”に逃げるしかなかった父親の気持ち――
俺には、痛いほどよくわかる。
「母さんのところに行って来たのか?」