迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*

あの日の過ち





「おかえり。」


本当なら、誰もいないはずのリビング。

庭も。玄関も。
灯りが消えていたから、てっきり無人だとばかり思ってたのに。



「……帰ってたんだ?」



ボリュームを落としたテレビの前。

ソファーに座って新聞を広げていたのは……



「ああ。今日は久しぶりに仕事が早く片付いてな」



穏やかに微笑む…父親、だった。




顔を合わせるのは、どのくらいぶりだろう?



祖父の代から続く会社で、社長を務める父は、

深夜に帰宅して、早朝に出勤する毎日。


出張だなんだで帰って来ないことも多いから、

同じ家で暮らしているはずなのに、ほとんど会わない。……昔、から。


“忙しい”が完全に嘘だとは思えないけど、
あえてそういう状況を作り出しているのは確かだ。


ここに、帰りたくないから。

必要以上に、関わりたくないから。


“仕事”に逃げるしかなかった父親の気持ち――


俺には、痛いほどよくわかる。



「母さんのところに行って来たのか?」



< 44 / 334 >

この作品をシェア

pagetop