迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「最近、よく会ってるそうじゃないか。」
咎めるわけじゃない。
むしろ嬉しそうに目を細めて、父さんは新聞を畳んで俺を見た。
「母さんも喜んでたぞ。
やっと遊びに来てくれるようになった、って。」
“母さん”って言うのは、もちろん“俺の”母さんのことだ。
父さんにとってそう呼ぶべき相手は“あの人”だけど…絶対に、そんな呼び方はしないから。
「なんなら、しばらく一緒に暮らしたらどうだ?
あの人が入院している間だけでも……」
……ほら。
あの人の存在は
父さんにとっても、忌々しいものでしかないんだ。
「そのほうが、母さんも嬉しいだろう。」
にっこりと、柔らかい笑みを浮かべる父さん。
……わかりやすいな。
この人は、今でも変わらず母さんを愛している。
母さんだけ、を。
離婚後、あの人は次々と再婚話を持ち込んで来たけど…父さんは頑なに断り続けた。
恋人を作ったことすらない。
それは、たぶん母さんも同じだ。
「……航は?どうしてる?」