迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「……あらっ。もうこんな時間?そろそろ戻らないと。」
時計を確認するなり、母さんは慌てて立ち上がった。
「また明日も来るんでしょう?」
つられて立ち上がりながら黙って頷けば、
「明日は私も早く終われるから、久しぶりに一緒に夕飯でも食べましょう?
家で…親子3人で。」
いきなりの提案。
「え…?」
「何か用事でもあるの?」
「いや…」
「ならいいじゃない。」
「でも……」
俺はよくても、アイツは絶対に嫌がるだろう。
だって……
「本当は今日にでも、って言いたいところなんだけど。急にだと航がね……」
困ったように笑う母さんを見て、やっぱりな…と思った。
アイツが素直に頷くとは思えない。
“説得する”時間が必要なんだろう。
……別に、
無理して“3人”で会う必要なんてないのに。
アイツ…航は、俺には会いたくないはずだから。
「大丈夫よ。航にはちゃんと言っておくから。
明日は“彼女”を家に連れて来ないように、って。」