迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*




だけど……

逃げ出すことはできなかった。

どんなに望んでも、逃れることは無理。


知恵はついても、俺は結局子供で。

無力で弱い生き物で。

家から…あの人から逃げたら、行くところなんてなかった。

“居場所”はここだけだったから。






ここには両親も弟もいる。

あの人だけじゃない。


家族がいるんだから。

辛いことばかりじゃない。



そう思って、頑張っていた。

母さんも航も、
みんな頑張っているんだから。

父さんだって、守ろうとしてくれてるんだから。

俺だって……




そう、思ってた。


なのに……










「ごめんね?櫂。」


あの日、母さんは言った。


「母さんたち、この家を出ていくことになったの。」


辛そうに…目に涙を浮かべながら。


「航がね…もうボロボロなの。このままじゃ、ダメになっちゃう。……わかってくれるわよね?」






俺は


頷くしかなかった――




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