迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
それからも。
俺の生活は、
たいして変わらなかった。
……いや。むしろ、ひどくなったかもしれない。
航も…母さんもいなくなった家。
父さんもすっかり寄り付かなくなって。
実質、あの人と2人だけの空間。
元々、あの人は俺にだけはやさしかったから。
至れり尽くせり。
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
何不自由のない、恵まれた生活。
だけど……
ある時、気付いてしまった。
あの人が必要なのは“俺”じゃなくて、
この家の、跡継ぎとしての“存在”なんだ、ってことに―――
ますます大きくなって行く期待と重圧。
無言で突き付けられる要求。
それに応えたからって、
決して自分のためにはならない。
居心地が悪くて。
辛くて苦しくて。
孤独な生活。
逃げたくても逃げられない。
だったら―――
消えてしまおうと思った。