迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「……あ。」
マンションのエントランス。
いつかと同じように、ばったりと出くわしてしまった。
「………。」
俺を見据える瞳も、あのときと同じ。
無言だけど、むき出しの敵意が突き刺さる。
そんな顔、しなくてもいいのに。
しばしの沈黙の後。
ふいっと瞳を反らして、
航はエレベーターのボタンを押した。
程なくして開いた扉。
「……乗れば?」
躊躇う俺に向かって、冷たく響く声。
「開」ボタンを押したままの航に促されるように、俺は中へと足を踏み入れた。
……息苦しい密室。
俺たちは並んで立つ格好になっていて。
距離はすごく近い。
だけど、なんだかすごく遠く感じる。
何もしゃべらない航と。
何もしゃべれない俺。
普通なら、数十秒でつくはずなのに。
やけに長く感じた。
「……アンタはさ、」