迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*




「一体、何がしたいの?」



ふいに聞こえてきた言葉。

冷たくて。低くて。
感情が見えない。


それは確実に、俺に向けられたもの。



「……え?」



その意味がわからなくて、思わず航を見れば……



「ここで、何がしたいの?」



俺をまっすぐに捉えて、
俺に問いかけていて。

なのに、その瞳に色はない。



「“親孝行”?“家族ごっこ”?この機会に、なくした時間を取り戻そう、ってやつ?」



フッと、鼻で笑う航。

バカにしたような、見下したような笑み。


普段のコイツからは、考えられないような表情、だ。



「さすが。成海サン家の自慢の“ひとり息子”は、違うよね。

母さん、大喜びだもん。
父さんも、でしょ?」


「俺は……」


「“やさしい”アンタが、“両親のため”って言うなら仕方ないけど……」



俺に口を挟む暇を与えることなく、航は続ける。



「アンタは、

どれだけ手に入れれば、気が済むわけ?」



< 55 / 334 >

この作品をシェア

pagetop