迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「……え?」
「もう十分じゃん?
全部持ってるじゃん?
それ以上、何が欲しいの?」
「航……?」
何を言ってるんだ?
攻撃的に、攻め立てるようにぶつけて来る航。
俺は訳がわからない。
でも……
「……盗らないでよ。」
小さく呟かれた言葉。
今までとは一転。
ひどく弱々しい声。
「……俺は、やっと手に入れたんだよ。」
泣き出す手前の、子供みたいな表情。
「もう、アンタのものは欲しがらないから。
他のものは全部、アンタにあげるから。
俺は“今”があればそれでいいから。だから……」
そのまま、まっすぐに俺を見て続けた。
「俺の…この生活を壊さないでよ。」
「……っ」
「俺には、ひとつしかないんだから……」
あの頃と同じ瞳で
航は
俺に懸命に訴えていた。
「……頼むから。
みさきだけは、盗らないで。」