迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
消えない記憶
――夢をみた。
それは、
ずっとずっと昔の記憶。
―――…………
――……
「…なんで?」
幼い俺が無邪気に問う。
「なんでダメなの?」
キッチンに立つ母さん。
夕飯の支度だったか。
その後片付けだったか…
そのへんは定かではないけれど、俺はその背中に向かって懸命に訴えていた。
「ユーキくんも、リョウくんも…みんな始めたって言うんだよ?」
近所の友達の名前を挙げて。
「今くらいに入るのがちょうどいいんだって。」
みんなに聞いたことを、もっともらしく話す。
「だから、僕も「…航、」
言いかけた俺を遮って、
手を止めた母さんがゆっくりと振り返った。
「この前、ちゃんとお話したでしょ?」
子供を諭す、そんな声色だったけど、
その瞳は、怒ると言うよりも哀しげな光を放っていた。
「残念だけど…航は、できないのよ。」