迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
確か、小学校2〜3年生くらいのことだったと思う。
俺が住んでいた街には、
有名な少年野球のチームがあって。
近所の子供たちにとって、それはちょっとした憧れだった。
スポーツが好きな子供であれば、一度は入りたいと願う場所。
クラブ活動や習い事の一環として、率先して入部させる親も多かった。
俺も、ずっと興味があって。
絶対にやると決めていた。
入部にはいろいろ条件があって、結構面倒くさかったけど…
チームに兄弟が在籍していれば、その口添えで簡単に入ることができたから。
俺は、すぐに始められると思っていた。
なのに…
逆に、それが仇になってしまったんだ。
“お兄ちゃんと同じことはできない”
母さんの言葉。
もう聞きたくなかったから。
もう十分、わかってしまったから。
それ以来、
俺がその言葉を耳にすることはなくなった。
“同じもの”は望まない。
そう決めたんだ――
「……航くん?」