迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
「しばらく、うちで暮らすことになったから。」
夏休みに入ってすぐ、
母さんは言った。
「お父さん、1ヶ月くらい海外出張らしいのよ。だから…」
あのバカでかい家で、独りで暮らすのは何かと大変だろう。
何より、今は物騒だから…泥棒にでも入られたら大変だ。
……とかなんとか。
二十歳になる息子に何を言ってるんだって感じだけど…
母さんは至って真面目な顔で続けた。
「ここからだったら病院も近いし…うちには部屋も余ってるし…ちょうどいいと思うのよね。」
…嫌だった。
これ以上、俺の生活の中に入り込まれたくない。
賛成なんてできるわけがないのに…
「バイトと病院通いで相当無理してるみたいだから…独りにしておくのは心配なのよ」
俺には、反対することはできなかった。
母さんが、完全に“母親”の顔になっていたから――
「いいわよね?」