迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*
迫り来る闇
「…大丈夫、だってば。」
荷物をまとめる華奢な背中に呼び掛ける。
「別にそんなに気にすることじゃないって」
俺の言葉に、ぴたりと動きを止めて。
彼女はゆっくりと振り返った。
……うわぁ。やっぱり怒ってる。
「………。」
無言のまま、俺を睨む大きな瞳。
眉を寄せて。
唇をぎゅっと噛み締めて。
かなりご立腹の様子なんだけど…ダメだ。
“可愛い”のほうが勝っちゃうから、不謹慎にも、頬が勝手に弛んでしまう。
だってさ、
いつもすましてるくせに、こういうときだけは、子供みたいに素直に顔に出るんだもん。
たぶん、他のやつには見せない表情だと思う。
……と。にやけてる場合じゃなかった。
「はっきりそうと決まったわけじゃないんだし、思い過ごしかも…「“そう”だよ。」
俺の言葉を遮って、彼女はキッと俺を睨んだ。
「絶対、知ってるよ。
だって…先輩、私の顔見て気まずそうに目をそらしたもん。」