センセイのチカラ―受験生応援小説―
「あ、あれ黒岩ちゃう?」
瑠美が指差した先には、出勤してきたばかりの黒岩の姿が。
難しい顔しながら、車から降りて、歩き出す。
「ほんまやぁ~!朝からかっこいいな」
「あんた、ほんまありえへん変わり様やな。今まで全く関心なかったのに」
瑠美はいきなり両手を上げて叫んだ。
瑠美の赤い手袋が大きく揺れる。
「おおーーーーい!!黒岩せんせぇーーー」
「ちょっと!瑠美!あかんって」
私が止めても、瑠美は面白がって、手を振り続けた。
黒岩は・・・・・・
どこから声が聞こえてるんか気付かずに、キョロキョロして。
その後、こっちに気付いて、“ん?”って感じの顔をして。
私と目が合うなり、ペコって頭下げて、小走りで校舎の中に入った。
「うわ~、何あれ。完璧に萌美のこと意識してる態度やん」
「意識っていうか、ビビられてるんちゃう?」
「そうやろな。萌美の気持ちに気付いて、どう接していいか悩んでるってとこかな?」
「かわいそうなことしたかな」
黒岩は、何をしても動じないようなタイプに見えたけど、なんかあんなに動揺してるのを見るとかわいいけど、かわいそうに思えてくる。
「ええねん、ええねん。萌美の心を奪ったんやから~!もっといじめて遊ぼうよ」
瑠美は、私の手を引っ張って、職員用靴箱まで走った。