純愛、こじらせちゃってます。
第1話 知らない男の子
高校生最初の夏休み初日。

今日からガソリンスタンドでバイトすることになった。


バイトを始めた理由は家庭の事情。


その事情というのは……。


「椎名さん、洗車上がったからお客さん呼んで!」

「は、はーーーい!!」


考えに耽る暇も無く、所長が私に合図を送る。


私は急いで待合室に戻り、声を張り上げる。


「お待たせ致しました。キャリオットをお待ちのお客様、洗車が終わりました~!」



し~ん。


誰も振り向かない。

おかしい。

名前が違うの?

改めて呼んでみる。


「横浜ナンバーのキャリオットをお待ちのお客様、いらっしゃいませんか?!」


待合室には3組のお客さんがいたけど、誰も無反応。


こ、困った!!


洗車待ちの車と、給油待ちの車でスタンドはいっぱい。


早く送り出さなきゃいけないのに……もう!



「キャ……」

「舞香ちゃん、落ち着いて。車名が違うんだよ」


もう一度叫ぼうとした時、背後から囁かれ肩をそっと叩かれる。


「横浜 『さ』の141× シャリオでお待ちのお客様、洗車が終わりました」


透き通った声が後ろから私の頭を飛び越えていく。


「ああ、私です。もう終わったの?早いね」


一人のお客さんが手を挙げて立ち上がる。

ほっとして慌ただしくレジに向かい、お会計を済ませる。

そして、スタンドから出ていこうとする車に頭を下げる。

サンキューのクラクションを鳴らして、お客さんはご機嫌で帰っていく。


その時になってようやく気持ちにゆとりができる。



……そう言えば、さっき助けてくれたのは誰だったんだろう。



「舞香」って私の名前を言っていたような気がしたんだけど……。


入ったばかりの私の名前……。

もう、覚えてくれた人がいたなんて。

キョロキョロと辺りを見回したけど、近くにはもう誰もいなかった。





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