キミの手の奥の僕
「佳世っ」
後ろで未玖の声が聞こえた。
それでも、私は足を止めることはしない。
もう、逃げたかった。
学校に居ると嫌でも考えてしまう気がした。
靴を履き替えようとしたところで私の腕を掴んだ未玖。
「はあ、はあ」
息が上がっている私にはそれを振りほどくほどの力は残っていなくて、ただ力なくローファを掴んでいた。
なんで追いかけてくるの?
未玖全然息上がってないし…。
「佳世、嘘吐いても苦しいでしょ?」
腕を掴む力を少しだけ強めて言う。
未玖の言うとおりで、
苦しくて、痛くて、辛い。
「あのね、佳世。沙和のこときちんと考えてるのは素敵な事だよ?だけどね、それで自分の気持ちを否定したり、押さえつけるのはちがうとおもうんだ。」
いつもは大きな目を細めて優しそうに私を見つめる。
未玖はもう分かってて、私のために追いかけてきてくれた。
私の周りには優しい人ばかりだ。
涙がでそうになるけど、唇を噛んで耐える。
ここで泣いたら、もう諦めるなんて無理な気がした。
「私は、沙和が幸せになればそれでいい」
沙和と晴が付き合えば、私もふんぎりが着くし、いつか何故あのとき諦めなかったんだろうと後悔するよりもいいと思う。
だからぜんぶ、私のためなんだよ?
この気持ちが膨らむのが怖いだけ。