ウラコイ2 銀幕の旦那様
寂しそうな笑顔で聞いてきた
「はい…。気になって、」
箸を置いて近くにある窓をみた
「…昔の話だ。あまり面白くもないよ、」
「それでも…構いません」
俺はしっかり彼をみる
市村が話すのをためらった話の先
この人はすべて知っている
市村がああなったのも…
勘十郎さんは、わかったよと言った
「…もう2、30年前になるかな。“瞳”に会ったのは…私が若かった時だ」
吉野瞳
彼女に会ったのは稽古の帰り道
くたくたになりながら歌舞伎座を出た
タクシーに乗りたかったが
金を持ち合わせてなくて
乗れなかった。
私は駆け出しでまだ若かった
家の名はついていたが
名だけでは誰もついてこない
毎日毎日 稽古していて 頭がおかしくなりそうだった
「きゃー」
人の声がしたから 振り向いた
夕方の商店街で誰かうずくまっていた
近付いたら土産物らしきモノが
たくさん地面に転がっていた
彼女は懸命に広がっている
土産物を1人で拾っていた
誰か手をかしてやったらいいのに…
誰も彼もが見ないふりだ
不愉快な気分で周りをみた後 声をかけた
「はい、」
「ありがとうございます。」