ウラコイ2 銀幕の旦那様
苦し紛れに彼女はつぶやいた







「…好きなの。市村君が…けど無理なの、あたしといたら市村君が迷惑する、それは駄目。駄目なの…」






「歌舞伎頑張ってね」





彼女はそう言って離れた




ちょうど26才…

親からも結婚を考えろと言われていた


彼女とならいいと思った
幸せになれると …









それからは とりつかれるみたいに歌舞伎に没頭した





考えたくなくて




いいように身体は動いた
父からは賞賛の声も聞いた



嬉しかったけど
虚しくてたまらなかった…


歌舞伎に逃げてる
だけだと知っていたから

逃げて逃げて身につけた芸


なんて最低な人間だと考えた












自問自答しながら毎日を過ごした



なぜ彼女が病気なのか


なぜ隠していたのか…







なぜ自分は
彼女と会ってしまったのか?











芸は磨かれる一方だった
考えても考えても答えは見つからない




もう 考えたくなくなった

どうでもいい…

いいじゃないか
彼女が生きてさえいれば…


彼女を思って
生きていけばいいじゃないか…



たとえ彼女が手に入らなくても…





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