ロバの少女~咎人の島
監視


トッコはレンに頼まれたことを教えてくれた

「ここに住むものたちは監視の恐ろしさをわかっていない、世と島の仕組みはだれもがわかっちゃいない」

愚痴のように吐き捨てながら、トッコは言った


「私は、母とずっと隠れて暮らしてきました。だから、監視がいることも。怖さも母に教えられました。でも、私は世も島も知りません。」
「だから、生かされたのさ。だから、島につれてこられたんだ」

トッコはしばらく押し黙ったあとミキに向かって言った

「お前の父親は死んだよ。」
「え・・・でも記録には何も」
「死んだんだよ」
「・・」

山羊の面が、泣いているように見えて、ミキはそれ以上聞くことが出来なかった

「母親はなんと言っていたかい?」

トッコは突っ立ったままのミキに、温まった山羊のミルクの入った器を渡した
ミキは手の中でどうしたらいいものかと器を覗き込んだ

「においはあるが、新鮮だよ。」

ミキは、一口飲んでその後一気に飲み干して器を返すと

「父に会いたくなったら、自分を殺せと・・」
「そうかい・・・」

「監視がどうやって生まれるか、考えたことはあるかい?」
仕事は世襲。
そういえば、母は何をしていたんだろう
父は・・
監視の子が監視?
そうすると

「・・ないです」
「じゃあ考えな。お前は、世に戻れるとも限らない。時間はたくさんある」

当たり前に世に戻る日が来ると思っていた

トッコの家からの帰り道、森の中をぐるぐる歩いていろんなことを考えた

森の中にいると監視に見られていないような気がした
蔵の中のように
陰の中のような安心感

歩いては罠が鳴り、歩いては罠が鳴り
迷惑そうな山羊の泣き声がした

トッコは家で見送ったきり、何度罠が鳴っても姿を見せなかった

「罠多すぎ・・」
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