ロバの少女～咎人の島

宿命（さだめ）

ヨークはトッコの家にいた

「もう、いいのか？」
「これ以上、忘れたくはないので。レンは…レンも彼女が好きだったんでしょう？」

「知っていながら、私には世も島も変えることはできなかった。ずっと繰り返した。排除と入れ替え。
世はやっと変わった。レン。おまえが世に戻った日。世はお前を送り返してきた。」

ヨークの目に映ったのは、たくさんの監視たち。

「世は、島を拒むことを決定した。我ら監視は闇に帰る。その命が尽きるまで。闇に生きる。我らは、今日から人ではなくなった。お前は島で生きろ。」

背の高い、大きな男だった

「これをミキに」
「まさか？あなたがフギさん？」
「幸い、私のような者は居なかった。闇の中でも、愛する者を見守れることは悪くなかった…」

フギの言葉に続くように、監視たちは闇に消えていくたくさんの何十、いやもっとたくさんの人影が闇に溶けていった

「レン」
「トッコさん、オレ…向こうでフギさんに」
「ミキはもう会うことはできない。」
「オレは会えたのに…」
「レン、すまない。」
「トッコさん？」
「おまえが帰ってきて、ずいぶん経つんだ。」
「え？さっき…」
「戻ってきたときに、仮の記憶をいれ。別人にした。」
「どうして？そんなこと」
「あの子を世に返すため。ひとりだけ、最後に受け入れると言われたのはおまえが島をでた後だった。おまえたちを引き離したくないと、フギがおまえを帰した。でも、私はあの子を島から出してやりたい。この島は世に見捨てられた。それに島は浮島。島と世との距離は日に日に離れている。鯨で渡すのはそろそろ限界だろう。」
「ミキを世に返せるんですか？」
「条件は記憶。おまえの記憶は一度消されていた、監視からではなく。世の役人からだ。世で見た記憶を消すためだけのために」
「この記憶は？オレ、フギさんから…」
「これか？」

赤い紐を結った小さな小さな鈴。

「おまえの記憶は消される直前、フギが封じた記憶までだ。」
「ミキに会えますか？」
「それはできない」